雲とエアロゾルの観測の切り札、EarthCARE

前回に引き続き、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の見学についてです。ここからは一般の見学者が入ることの少ない領域です。目的は雲とエアロゾルを観測する衛星、EarthCAREです。

しかしそもそもエアロゾルとはなんでしょうか? 雲とエアロゾルを観測することにはどのような意味があるのでしょうか?

多少複雑な話になりますが、この点が理解できると、現在進行している地球温暖化の研究におけるEarthCAREの役割が納得できるようになります。

エアロゾルとは何か?

エアロゾルとは大気中に含まれる目に見えない微粒子のことを指す言葉です。

たとえばトラックや工場などの排ガスからは粉塵や浮遊粒子状物質といった小さな粒子が大量に発生します。人為起源のものばかりではなく、エアロゾルは自然にも多く存在します。たとえば海塩エアロゾルなどは海の上で風が吹くだけで海水から生まれてきます。

エアロゾルは固体であったり、液体であったり、大きさも様々ですが、雲や霧を発生させる原因になったり、空の色合いを決めたりなど、小さいからといって無視できない影響をもっています。

なんでエアロゾルが大事なの?

エアロゾルは目に見えない小さな粒子ですが、なぜそれほど重要なのでしょうか? それはエアロゾルが地球の温暖化がどのくらい進むかの鍵となっているからです。ちょっと複雑な話ですが追ってみてください。

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こちらはさまざまな効果が大気をどのように温暖化・寒冷化するかをまとめたIPCCの第4次成果報告書の図です(引用元)。

いろいろとごちゃごちゃ書いてありますが。上から寿命のながい温室効果気体(二酸化炭素やメタン)や、エアロゾルなどといった項目にわけて温暖化に寄与しているか、寒冷化に寄与しているかが図になっています。そして、中央の線に対して右側に伸びていれば温暖化に寄与、左側なら寒冷化というわけです。

一番下の柱が全部の影響を積み上げたもので、なるほど地球を温暖化する方向に働いているということがわかります。ただ、ひとつだけ気になる点があります。

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そう、誤差を示す棒が異様に左右に長いのです。そしてその誤差のほとんどはエアロゾルの直接・間接効果がどれくらい大きいのかわからないというところからきています。

二酸化炭素についてはどのくらいの効果があって、どのくらい排出されているかは割合正確な情報があります。しかしエアロゾルについてはわかっていないことのほうが大きいくらいなのです。

これでは「50年後にどのくらい温暖化するの?」と聞かれても不確定性が大きすぎてなかなか予測ができません。

エアロゾルの直接影響と間接影響

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もうちょっと複雑な話にお付き合いください。

そもそもエアロゾルはどうして地球を寒冷化するのでしょうか? それには「直接効果」と「間接効果」というエアロゾルのもつ2つの役割があります。

「直接効果」は大気中にエアロゾルがあるおかげで太陽からやってきた光が反射して宇宙に逃げる効果を指しています。本来届くはずだったエネルギーが入らないのですから、これは地球を寒冷化するように働きます。これはわかりやすいですね。

「間接効果」はもうちょっと複雑です。エアロゾルは雲や雨を作るときの「凝結核」という種になりますが、雲に取り込まれるエアロゾルの大きさや種類が変化すると雲や雨も変わってしまうという効果があります。

たとえば雲をつくっている小さな水の粒(雲粒)の大きさが変わってしまったり、雨の一滴一滴の大きさが変化してしまいます。このことは雲の白さや雲の寿命などを変化させます。

雲が変わるということは、雲に反射される太陽の光も変わるということで、どれだけ地球がエネルギーを受け取るか、つまりは温暖化の強さを変えてしまいます。

これほど大事なことなのに、エアロゾルはあまりに小さく、普遍的に分布しているために観測が難しいという問題があります。EarthCAREはこの問題に直球勝負を挑む衛星なのです。

雲と大気をさまざまな角度からみるEarthCARE

EarthCAREはこの問題に取り組むために複数のセンサーを搭載しています。JAXAがNICTとともに開発しているのはこのうち、雲プロファイリングレーダ (CPR)という部分です。

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いろいろと技術的な秘密があるために撮影は禁止されていましたのでこちらはJAXAからいただいた CPR の写真になります。

CPRは大きなアンテナに見えますが、95GHzの電波を利用するドップラーレーダという機械です。ドップラーというと救急車の音が近づいてくるか遠ざかるかで変化するあの効果ですが、これを電波に対して応用することで雲のなかの粒子の構造と動きを同時に100m単位で計測することができます。

つまりCPRがあればどのような雲がそこにあるかを詳細に調べることが可能なのです。これに欧州で開発されている大気ライダ (ATLID)というエアロゾルを直接観測るセンサーと組み合わせれば先程登場したエアロゾルの効果を詳細に調べることが可能です。

この他にもEarthCAREには多波長イメージャ (MSI)という水平方向に広い雲の観測を行うセンサーと、広帯域放射収支計 (BBR)という地球からの放射を調べるセンサーが搭載され、この衛星一つでエアロゾルから雲、地球の放射までもがわかるというぜいたくぶりです。

EarthCAREの打ち上げは当初2013となっていましたが、大気ライダの設計の問題によって2015までずれ込んでいます。

ブロガーとして参加して

今回 JAXA の内部、特に一般に公開していない部分まで立ち入らせていただけたのは本当に興味深い体験でした。

私も本業では一人の研究者ですが、専門領域は非常に高度でなかなか一般のかたに一口で説明することはできません。だからといって、科学的に重要なミッションの説明を必要以上に薄めてしまうことも現場の努力を無にすることになりかねません。

今回、多少関連する知識をもっているブロガーとして参加することができたことで、こうして専門知識を解説する記事を書くことができたのは有益だったとおもいます。

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JAXAのみなさまには貴重な時間をいただいて詳細な説明をいただきありがとうございました。今後も別の衛星ミッションやプロジェクトについてお聞かせいただけたら嬉しいです!

(追伸)

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JAXAからはいくつかのおみやげももらってしまいました。ALOS-2の付箋、DPRのピンバッジ、TRMM/PRやGCOM-W1の巾着袋…って、知っている人にはとてもうらやましくなるラインナップなのですが、略語で説明するだけではなにがなにやらですね! またお話をうかがいに行かなくてはいけないということで!